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大阪高等裁判所 昭和30年(う)1381号 判決

主文

本件控訴を棄却する。

理由

弁護人馬淵建三の控訴趣意第一点について、

原判決は「被告人は朝鮮人であるが、第一、昭和二七年一〇月三〇日大阪市都島区役所において同区長に対し、昭和二五年一月二一日付大阪府中河内郡巽町長発行にかかる郭興淑名義の外国人登録証明書を自己が交付をうけたもののように装い返納の上(一)外国人登録法第一一条第二項に定める登録証明書交付の申請書に氏名「郭興淑(金山正男)」生年月日「一九一五年一〇月一日」居住地「大阪市都島区大東町一丁目七五二岩谷方」等と虚偽の記載をして自己の写真と共に提出し、(二)同法第八条第二項に定める登録証明書の居住地の記載の書換の申請書に前記同様虚偽の記載をして提出し、第二、昭和二九年一〇月二五日大阪府中河内郡加美村役場において同村長に対し、同法第一一条第二項に定める登録証明書の交付の申請をするにつき、前記第一の各申請に基き交付を受けた郭興淑名義の登録証明書を返納し、自己の写真と共に氏名「郭興淑」生年月日「一九二五年一〇月一日」等と虚偽の記載をした申請書を提出しもつて右各申請につきそれぞれ虚偽の申請をした」との事実を認定し、外国人登録法第一八条第一項第二号を適用処断したのに対し、所論は同号中同法第八条第三項又は第一一条第二項の規定に違反して登録証明書の交付又は書換に関し虚偽の申請をした者とは、同法第三条による登録証明書の交付をうけた外国人が、同法第一一条第二項による登録証明書の交付申請又は同法第八条第二項による居住地記載の書換申請等をするについて虚偽の記載をした者をいうのであつて、本件被告人は当初から右第三条第一項所定の証明書の交付をうけていないので、このような場合には同法第一八条第一項第一号の違反罪の成立があるだけであつて、原判決のように同項第二号を適用すべきものではないというのである。よつて考察するに、被告人は昭和二四年三月末頃本邦に密入国をし、今日まで在留している者で(密入国者が外国人登録証明書交付の申請をする資格乃至義務があるか否かは暫くおき)同法第三条第一項所定の証明書の交付申請をすることなく、原判示のように郭興淑名義の登録証明書を利用して虚偽の申請をした者であること記録により明らかである。ところで出入国管理令及び外国人登録法が施行され、外国人の出入国に関する一定の資格及び手続を定め又在留外国人に登録申請義務を課しているのは、本邦に出入し又は在留する外国人の公正な管理をする為めであつて、特に右義務を履行するにあたり虚偽の申請をした者を処罰する規定を設けているのは、在留外国人の居住関係及び身分関係を明確にさせ、登録の真実性を確立保証しようとするが為めに外ならない。従つて外国人登録証明書の居住地其の他の記載事項の書換又は同証明書につき虚偽の申請を禁圧し以て外国人登録の真実性を担保するために取締ることを要するのは既に正規の登録証明書の交付を受けている者の行為に限らず、正規の登録証明書の交付をうけていない者の右虚偽申請をも取締の対象としなければその目的を達し得ないのであつて、同法第一八条第一項第二号中第八条第二項の規定に違反して虚偽の申請をした者とは同法第三条第一項の申請を尽した者に限るべきものでないと解するを相当とする。そして同法第一八条第一項第一号は法定期間内に登録証明書の交付、再交付又は書換の申請手続をしないという不作為に対する処罰規定であり、同項第二号は右各手続につき虚偽の申請をするという作為に対する処罰規定であつて両者自ら処罰の対象を異にし、前者に該当する者(例えば同法第三条第一項による申請を怠つた者)に対しても後者の規定の適用を妨げるものではない。このように解してこそ同法第一条に明記する法の目的を達成することができるものといわれなければならない。原判決には所論のような法令適用についての誤は認められない。

同第二点について。

所論の情状を考慮しながら記録を精査しても、被告人に対する原審の科刑が重すぎることは認められない。

よつていずれの趣意についても本件控訴は理由はないので刑事訴訟法第三九六条により主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 万歳規矩樓 裁判官 井関照夫 小川武夫)

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